電気電子工学

作成の背景

  2008年4月、日本学術会議は文部科学省高等教育局長から「大学教育の分野別質保証の在り方に関する審議について」と題する依頼を受け、同年6月に課題別委員会「大学教育の分野別質保証の在り方検討委員会」を設置し、2010年7月に回答「大学教育の分野別質保証の在り方について」[1]を取りまとめ、同年8月に文部科学省に手交した。同回答で、分野別の教育課程編成上の参照基準を策定することが提案された。今般、電気電子工学分野の参照基準が取りまとめられたことから、大学をはじめとして各方面で利用していただけるよう、ここに公表する。

報告の概要

(1)電気電子工学の定義

  電気電子工学は基盤を物理学と数学におき、電磁気学や量子力学等を活用して電磁気的現象、電子の振る舞い、電磁波・光波、量子等を自在に操り、情報を数学的に表現してその伝送や処理を高度に行い、大規模なシステムをモデル化し制御して所望の機能を実現する学術領域である。周辺の学術領域とも連携を深めて広範な工学的成果を生み出し、人々に豊かな生活を提供し、人類が持続的に発展することを可能にする中核的役割を果たす領域である。

  そして本領域は、『エネルギー』と『情報』とを主として取り扱う「対象」とし、それらを自在に操る「手段」として『エレクトロニクス』を中心とした材料、デバイスからソフトウェアに至る領域も包含し、これら「対象」と「手段」とが絡み合って融合した極めて大きな領域をカバーする学術分野である。

(2)電気電子工学に固有の特性

  電気電子工学は、電磁気学や量子力学をはじめとする物理学ならびに数学により、実現すべきデバイスやシステム等に要求される性能・特質に応じて最適な設計科学的手法を体系化し、提供する。多様なレベルでの簡略化・抽象化を行うが、物理学、数学の原理から着実に理論を積み重ね、厳密な体系化のもとに簡略化・抽象化がなされることが特徴である。この結果、各設計手法は、高度な学術的技法を用いながらも容易に使いこなせる。

  電気電子工学は、物理学、数学を活用して、社会が必要とする「もの」および「こと」を作り出す学術体系である。それ故に、将来にわたっても、境界領域・融合領域における新たな学術分野の創成に寄与していくことが求められる。

(3)電気電子工学を学ぶすべての学生が身に付けることを目指すべき基本的な素養

①基本的な知識と理解

  以下のことを説明できる知識と理解が必要である。電気的・磁気的現象を個別現象相互の関連を含めて説明でき、それらを制御・応用する手法を説明できる知識と理解。また情報を数学的に表現する手法と評価する手法、数学的に表現された情報を電気的・磁気的現象に変換する手法と処理する手法も説明でき、システムの状態を把握してこれを制御して所望のシステム機能を実現する方法も説明できる知識と理解。さらに各知識と理解を抽象化して、より大規模なシステム機能を実現する方法も説明できる知識と理解。数学ならびに物理学に関わる基礎的な事項が説明でき、電気電子工学の社会における役割と責任が説明できる知識と理解。コミュニケーションに関する知識と理解、そして社会が必要とする総合的で複雑な課題を解決する経験を積んで得られる課題発見と課題解決に関する知識と理解。

  各大学は、学士課程の設計に当たり、建学精神や規模に応じ、獲得する知識と理解に最適な重みを付け、最適な学修量を自主的、自立的に設定する。

②基本的な能力

  学士課程で習得した知識と理解によって導かれる分野に固有な能力により、以下のことができるようになる。電気的・磁気的現象とこれらを抽象化した知識と理解、ならびにこれらを制御・応用する手法とを活用して、ある機能を示す材料、デバイス、機器等を、案出、設計、開発、実用化できる。システムの状態を把握し制御しつつ所望のシステム機能を実現することもできる。情報を数学的に表現する手法ならびにそれを評価する手法、数学的に表現された情報を電気的・磁気的現象に変換する手法ならびに処理する手法を活用して、新たな機能を示すデバイス、機器、システム、サービス等を案出、設計、開発、実用化できる。技術の公共性を理解し、工学倫理等の熟慮により、提供するサービス、システム、機器、デバイス、材料等が社会にとって適切であるかの判断ができる。社会が必要とする解答が明確ではない総合的で複雑な課題に関して、これを発見して解決する能力を発揮できる。

  このような電気電子工学の学びを通じて獲得すべき基本的な能力、すなわち簡略化・抽象化能力やシステム的思考力は、卒業研究等を通じて得られる課題発見・解決力、実験・演習等を通じて涵養されるコミュニケーション力、チームワーク力と相俟って、一般的・汎用的に活用できるジェネリックスキルとなる。電気電子工学領域は、材料、デバイスから、システム、社会インフラに及ぶ幅広い対象を扱う。したがって、それぞれの要素に最適な重み付けをもって学び、さらに技術を社会実装することを務めとする工学に携わる者のための教養教育の構成にも工夫することによって、今後の社会にとって「何を作る」ことが重要かということと、それを「どう作るか」ということの双方に対する感性を高めることもできる。

(4)学修方法及び学修成果の評価方法に関する基本的な考え方

  知識を獲得し思考力を養う講義、知識と思考力を活用して自分のものとする演習・実験、体験教育、問題発見・分析・解決力や課題へのチャレンジ精神を養うための課題研究も組み合わせることが望ましい。透明で公正な評価体系を導入することが重要である。

(5)市民性の涵養をめぐる専門教育と教養教育の関わり

  電気電子工学の幅と厚みへの理解の他、社会への貢献にとって必須の広い教養が必要である。様々な分野と協働できる能力、第一言語(最も上手く使いこなせる言語)力、国際語力、双方向のコミュニケーション力も重要である。