経営学

1 作成の背景

2008年(平成20年)4月、日本学術会議は、文部科学省高等教育局長から学術会議会長宛に、「大学教育の分野別質保証の在り方に関する審議について」と題する依頼を受けた。このため日本学術会議は、同年6月に課題別委員会「大学教育の分野別質保証の在り方検討委員会」を設置して審議を重ね、2010年(平成22年)7月に回答「大学教育の分野別質保証の在り方について」を取りまとめ、同年8月に文部科学省に手交した。

同回答においては、分野別質保証のための方法として、分野別の教育課程編成上の参照基準を策定することを提案している。日本学術会議では、回答の手交後、引き続きいくつかの分野に関して参照基準の策定を進めてきたが、今般、経営学分野の参照基準が取りまとめられたことから、同分野に関連する教育課程を開設している大学をはじめとして各方面で利用していただけるよう、ここに公表するものである。

2 報告の概要

(1)経営学の定義

経営学は、営利・非営利のあらゆる「継続的事業体」における組織活動の企画・運営に関する科学的知識の体系である。営利・非営利のあらゆる継続的事業体の中には、私企業のみならず国・地方自治体、学校、病院、NPO、家庭などが含まれる。また、企画・運営に関する組織活動とは、新しい事業の企画、事業体の管理、その成果の確認と改善、既存事業の多角化、組織内における各職務の諸活動である。これらの諸活動を総体として経営と呼ぶ。

(2)経営学固有の特性

経営学は、従来では社会科学の一分野として位置づけられていたが、今日では自然科学の成果も活用した総合科学としての性格が強まっている。そこでは、経営学固有の視点が確立している。

第一の視点は、営利・非営利の継続的事業体を俯瞰的に見る視点であり、「経営者の視点」あるいは「経営主体の視点」と言われるものである。

第二の視点は、組織を構成する各職能の管理者の視点であり、それぞれの職能単位組織の課題を効率的に解決するものである。

第三の視点は、営利・非営利の継続的事業体の活動を社会全体の発展と関連づけて点検する視点である。営利・非営利の継続的事業体はそれを取り巻く社会と相即的に発展する必要があり、社会秩序全体との整合性を自己点検する必要がある。

(3)経営学を学ぶ学生が身に付けるべき素養

経営学を学修した者は、営利・非営利の継続的事業体がどのような論理で、どのような意思決定を行い、どのような結果になったかを理解し、説明することができる。さらに、継続的事業体が直面している諸問題の構造を分析し、それに対処する最適な行動を提示することができる。継続的事業体を実際に管理する知識を身に付け、それを実践できる能力を習得している。

経営学を学んだ学生が身に付ける専門的能力としては、たとえば、継続的事業体を企画し運営することができる、その資金の流れを把握し、その活動結果を貨幣的に測定することができる、顧客のニーズを把握し、求められる商品を開発することができるなどの諸能力が挙げられる。

(4)学修方法および学修成果の評価方法に関する基本的な考え方

学修方法としては、講義、講読、演習、実習・現場教育など多様な方法が活用される。講義は、経営に関する古典的な知識や最先端の理論を学修する上で基本的な学修方法である。しかし、実践に近い学問として、現場で考え、経験から知識を身に付ける実習・現場教育も経営学では効果的な学修方法である。

(5)市民性の涵養をめぐる専門教育と教養教育の関わり

経営学は営利・非営利のあらゆる継続的事業体と社会との整合性を調整する学問であり、その限りにおいて、自然の摂理、人間の本質、社会正義などに関する深い洞察を必要とする。したがって、経営学は教養科目を基礎とすると同時に、それらの知見を営利・非営利の継続的事業体の観点から再構成することにより、経営学自体が教養科目としての意義を持っている。