社会福祉学

作成の経緯

2008年5月、日本学術会議は文部科学省高等教育局長から日本学術会議会長宛てに「大学教育における分野別質保証の在り方に関する審議について」と題する依頼を受けた。このため、日本学術会議は、同年6月に課題別委員会「大学の分野別質保証のあり方検討委員会」を設置して審議を重ね、2010年7月に回答「大学教育の分野別質保証の在り方について」を取りまとめ、同年8月に文部科学省に手交した。この回答においては、分野別質保証のための方法として、分野別の教育課程編成上の参照基準を策定することを提案している。今般、社会福祉学分野の参照基準が取りまとめられたことから、同分野に関連する教育課程を開設している大学等、各方面で利用していただけるようここに公表する。

報告の概要

(1)社会福祉学の定義

社会福祉学が対象とする「社会福祉」とは、人々が抱える様々な生活問題の中で社会的支援が必要な問題を対象とし、その問題の解決に向けた社会資源の確保、具体的な改善計画や運営組織などの方策や、その意味づけを含んだ「社会福祉政策」(以下、政策)と、問題を抱えた個人や家族への個別具体的な働きかけや地域・社会への開発的働きかけを行う「社会福祉実践」(以下、実践)によって構成される総体である。この点をふまえ、社会福祉学は第一に、社会福祉の政策と実践の「現実(実体)」を対象とし、なぜそのような現実が存在するかを、その矛盾も含めて系統的に追究する学問であり、第二に、多様な個人の幸福(well-being)の追求を支える、誰にとっても生きやすい社会の幸福を追求するためのあり方を提起する学問である。

(2)社会福祉学の固有の特性

社会福祉学に固有な視点は、第一に、実体としての社会福祉を政策と実践に分け、これらが相互に連関するシステムとして捉えることである。第二に、政策と実践の連関システムとしての社会福祉の実体を、これを貫く価値や規範とともに把握することである。社会福祉学の学問としての固有性は、政策と実践の連関システムの把握と、実体と価値との関連の追究という二段構えの複眼的視点に立つことである。こうした社会福祉学の複眼的視点は、歴史的に社会福祉学の本質を巡る論争の中で形成されてきた。社会福祉学は、社会福祉専門職に必要な倫理・知識・技術を研究し教育することにとどまらず、多様な価値観や利害関係をもつ当事者、機関・団体、一般市民等に対して、政策や実践の相互連関システムの学術的解明やデータ構築を基礎に、新たな価値を含んだ問題解決の方向性を示す役割を担っている。特に、社会福祉学は深刻な生活問題と強く関わっており、こうした問題を社会へ提起すると共に、それらの問題を抱えた人々を含んだ個人の幸福の追求を社会の幸福の追求につなげる道筋を明らかにする責任を持っている。

(3)社会福祉学を学ぶ学生が身に付けるべき基本的素養

社会福祉学を学ぶ学生は、個人と社会の幸福を両者の連関を踏まえて追求し、説明する力である「福祉マインド」を身に付ける。福祉マインドは「やさしい心」や「思いやりの心」と捉えられがちであるが、ここでいう福祉マインドとは、人間の尊厳などの価値を踏まえて自らが社会的役割を実行するために必要な素養である。

社会福祉学教育によって習得される社会福祉学に固有な能力は、1)個人の尊厳を重視し支援する能力、2)生活問題を発見し、普遍化する能力、3)社会資源を調整・開発する能力、4)社会福祉の運営に貢献する能力、5)権利を擁護する能力、6)個人の力を高め社会を開発する能力、の6点に整理できる。さらに、これらに加えて、1)社会で暮らす一人ひとりの生活を重視し、多様な価値観を受容する、2)人権の視点をもち差別や社会的排除の問題に気づく、3)他人の話に耳をかたむけ、その人が抱えている課題を認識し、それが社会の問題であるとして把握する、4)日々の生活の中で市民としての責務をはたし、市民性を発揮する、5)市民社会のさまざまな活動に積極的に参加し、広く人々の生活の質の向上に貢献する、6)他者と協同してよりよい共生社会を構築するための役割を担う、といったジェネリックスキルも習得される。

(4)学修方法および学修成果の評価方法に関する基本的な考え

社会福祉学教育では多様な学修方法が用いられ、それらが有機的な関連性をもって提供されることによって、個人と社会の幸福の追求に関わる価値、倫理、理論、方法に関する知識・スキルを含めた福祉マインドの習得が可能になる。また、大学のみならず関連機関や地域との密接な連携を図るとともに、保健学、医学、看護学、教育学などの隣接科学との連携教育も重要になる。このような多様な学修方法で展開される社会福祉学の専門教育の成果は、単なる知識の総量で測定することができない要素を多く含んでおり、評価においては、各場面に応じた個別的な学修目標の設定と多様な指標やアプローチによる評価方法の採用が求められる。

(5)市民性の涵養をめぐる専門教育と教養教育の関わり

共生社会の実現を含め、公共的な課題が増大する現代社会において、社会福祉学は市民性を涵養する教養教育においても重要な役割を担っている。さらに、学問分野の枠を超えて共通に求められる知識や技法を提供する教養教育を基盤として、社会福祉学の専門教育においては、市民性の現実社会における組織化や展開を支援するファシリテーターを育成することが期待されている。

(6)社会福祉学教育をめぐる今後の課題

社会福祉学教育においては、国内では進学・就職キャリアの過程が多様化するユニバーサル化が進展し、国外との関係においては、教育の標準化・透明化や資格の互換性の確保を志向するグローバル化が求められている。社会福祉学教育はこうした2つの動向を視野に入れ、その教育内容が点検されなければならない。