材料工学

1 作成の背景

日本学術会議は、2008年(平成20年)4月の文部科学省高等教育局長から日本学術会議会長あての審議依頼に応えて、2010年(平成22年)7月に取りまとめた回答「大学教育の分野別質保証の在り方について」に基づき、分野別の教育課程編成上の参照基準を策定することを提案した。

材料工学分野においても材料工学将来展開分科会内に参照基準検討WGを設けてその趣旨に基づく参照基準の策定を進めてきた。今般、材料工学分野の参照基準が取りまとめられたことから、材料工学の教育課程を開設している大学を始めとして各方面で広く利用していただけるよう、ここに公表するものである。

2 報告の概要

(1)材料工学の定義

本章では本参照基準における材料工学の定義を述べている。

材料は、科学技術、産業の発展と相補的・相乗的な関係を保ちながら進化してきた。今や材料は世界規模の多様なニーズに応えるべく進化し、また世界規模で技術や産業の発展を促している。その中で材料には目的の機能の実現に加え、経済性、供給安定性、環境性能などの様々な社会価値との両立も求められ、材料工学にはそれらを担う高度な材料技術者の育成が求められている。

このような背景の下、本参照基準では材料工学を「材料の創製と高機能化を極める工学」と定義している。ここで「材料」とは様々な物質からなる素材からある使用目的を有した構造体の多様な構成要素までの総称であり、「材料の創製」とは、現存しない材料、あるいは、より優位に使用目的に適合する材料を工夫して造りだすこと、「材料の高機能化」とは、材料の多様な機能を社会的価値も含めて向上させること、あるいは、新たな機能を付加することである。

(2)材料工学に固有の特性

本章では材料工学に固有の特性を述べている。

材料工学が、物質を対象とする他の諸科学と最も異なる固有な点は、「材料化」という目的行為である。「材料化」とは、様々な物質を構造体の構成要素までに高次化することであり、それを実現するのが材料プロセスであるが、材料工学では、新物質探索の方向性を内包しつつ、「材料化」における制約条件を意識し、与えられた条件下で材料プロセスや材料システムを実現する。また、材料に関わる機能やアプローチの多様性や、材料工学があらゆる工学領域の基盤の一部を構成している点も、その固有の特性と言える。

(3)材料工学を学ぶすべての学生が身に付けることを目指すべき基本的な素養

① 材料工学の学びを通じて獲得すべき基本的な知識と理解

物理学、化学を基盤とする材料の基本的体系である「材料リテラシー学」、材料化の仕組みの体系である「材料プロセス工学」、材料システムの創製方法の体系である「材料システム工学」の三つの基礎の重要性、加えて、材料工学の歴史や現状、材料の可能性と限界、材料工学の社会的役割、それぞれについての知識と理解の重要性を述べている。

② 材料工学の学びを通して獲得すべき基本的な能力

材料工学の学びを通して獲得する現実的課題へ対処する能力や職業上の能力、学問・社会の変化への対応力に加え、複雑な課題に対応する知的訓練、コミュニケーションや倫理に関わるジェネリックスキルが重要であることを述べている。

(4)学修方法及び学修成果の評価方法に関する基本的な考え方

講義及び演習、実践的演習、実験、卒業論文研究などの学修方法を述べるとともに、学修の目的や内容に応じた柔軟な評価、評価対象として、基礎科学の側面の知識と理解だけでなく社会や産業、環境との関わりについての理解も必要であること、などを述べている。

(5)市民性の涵養を巡る専門教育と教養教育の関わり

材料工学は、材料を通じて基礎科学の成果を市民の要求と期待に応える社会価値に結び付ける役割があり、そのために市民性の涵養が重要であること、材料の選択・利用が産業や経済、社会、環境へ及ぼす影響を考慮し社会的な責任を認識すること、社会に対する説明性を高めること、そのために他の分野と連携し意見交換できる能力の必要性を述べている。

(6)高度な教育研究への展開

本章では、学部教育後の高度な教育研究への展開として、大学院における高度な教育と研究、先端的研究への展開、国際性の涵養、継続的教育の重要性を述べている。