政治学

1 作成の背景

公共の課題の解決に関与できるシティズンシップ(市民としてのあり方)の涵養という、現代社会において強く求められている課題の実現にとって、学士課程教育における政治学の役割は大きく、その責務もまた重大である。我が国の政治学教育が担ってきたものを確認すると共に、現代の状況に対応すべく、本参照基準を検討することとした。

本参照基準は、政治学の体系的な専門教育か、共通科目・教養科目としての位置付けであるかを問わず、各大学が教育課程を編成するに当たり、共通の基準として利用できるような内容を概括するものであり、それぞれの置かれた状況や条件に応じて、教育担当者によって主体的に参照されることを目的としている。それは、いわゆる「コア・カリキュラム」のように、あるべき教育内容について何らかの必要条件を示すものではない。

2 報告の概要

(1)政治学の定義

政治学は政治現象を認識する学問分野である。政治現象とは、人間集団がその存続・運営のために、集団全体に関わることについて決定し、決定事項を実施する活動を指す。

(2)政治学固有の特性

社会科学の一分野としての政治学は、他の分野に比して、内部に対立構造とも言うべきものを抱え込んでいる特徴をもつ。それは、ある単一の視角によって、あるいは指標によって、対象とする現象をとらえることはできないと見なす。むしろ、二極間の位置付けを計測することを通じて、現象に多角的に迫るのが政治学的な方法の特徴である。

具体的には、人間の多様性を前提とした上で、種々の価値観やアイデンティティ、あるいは諸利益をめぐって生じる対立・紛争に注目し、いかにして紛争を解決して、社会統合をもたらすかが、そこでは追究される。その際に最も留意されるべきは、自由な個人がいかにして全体的な秩序を構成しうるかといった、個別性と全体性との相克の問題である。現代社会においては、これは自由主義とデモクラシーの緊張関係として、政治学の重要な主題の一つをなしている。普遍性を踏まえつつ個別性を論じ、多様性にもとづいて統合を実現するための知的な枠組みが政治学である。

(3)政治学を学ぶすべての学生が身に付けることを目指すべき基本的な素養

政治現象を認識する学問である政治学を学ぶ意義の中心は、政治に関してより合理的に考察し判断できるようになることである。

その際、中心となるのは、政治家や官僚に必要とされる能力よりも、市民として政治を観察し、それに積極的に関わってゆくための思考力と判断力を身に付けることである。よりよい市民のあり方(シティズンシップ・市民性)の涵養が、大学での政治学教育の中心課題である。

もとより市民性の涵養は、政治学に限らず、学士課程教育の全体において念頭に置かれるべき目的であるが、取り分け政治学は、市民が構成する公共空間の全体について配慮し、それを維持し刷新する活動としての政治をじかに対象とする点で、シティズンシップ教育の中核をなす。

具体的には、民主政治とはいかなる政治体制なのか、そのよって立つ原理を理解し、歴史上いかなる経緯によって確立したのかを知ることを通じて、市民が政治に関わる営みの意義を理解したり、国内政治と国際政治とが現実にどのように動いているのかを知ることで、現実政治に対する判断力を高めることが期待される。

3 政治学の学修方法及び学修成果の評価方法に関する基本的な考え方

学修方法は、講義・演習などが中心となるが、これに加えて、政策決定や政策実施の具体的な現場でのインターンシップなどを通じて、経験に根ざした政治的な素養を身に付けることも可能となる。

4 政治学における市民性の涵養をめぐる専門教育と教養教育の関わり

シティズンシップ教育の中核としての政治学においては、専門教育と教養教育とは、よき市民性の涵養という目的に向けて、有機的に連携しうる。

5 現代的課題への対応

経済のグローバル化など、政治の前提条件は大きく変化している。従来の政治学が前提としてきた主権国家体制にゆらぎが見られ、国民という単位を前提としてきた民主政治の限界も明らかとなり、国内では格差対策や統治機構の抜本改革など課題が満載である。こうした中で、新たな対立構造をとらえ、その解決を目指して行く上でも、政治学的な素養の重要性はますます高まるものと言える。